不動産取引には、譲渡や賃貸借、使用貸借など様々な契約形態があります。また、不動産取引では見慣れない書式の契約書も多く、契約を面倒に感じてしまうかもしれません。
では、手間を削減するために不動産売買を電子契約で済ませる事はできないのでしょうか。この記事では、不動産売買契約の概要やそのメリットについて、解説していきます。

不動産売買の電子契約とは

不動産売買の電子契約については、国も前向きな姿勢を示しています。ここでは、まず不動産売買契約の特徴をおさえた上で、近年進みつつある電子契約の動きをみていきましょう。

不動産売買契約の特徴

不動産売買にあたり、重要事項の説明を受けた後に締結されるのが、不動産売買契約です。契約内容には、特段決まりはないので、法令や公序良俗に反しない限りは双方の合意に基づき自由に決めることができます。
クーリングオフによる解除、手付による解除など一部の取り扱いを除き、一度契約を締結すると簡単に解除する事はできません。そのため、自己責任のもとしっかり契約内容を理解した上で締結する必要があります。

〇印紙税について
契約の際には、対象の文書に課税される印紙税についても理解しておかなくてはなりません。不動産売買契約の場合、金額が1万円以上になるとその金額に応じて印紙税が課されることを覚えておきましょう。

なお、印紙税の納付義務者は売主と買主双方とされています。通常、文書が2通作成されるので、それぞれ1通分の印紙税納付が必要になると理解するといいでしょう。

近年進む電子契約

実は、一部の取引を除き、不動産取引については法律上は契約書を書面で作成する必要はないので、原則電子契約でも締結できます。ただし、宅建業法35条で規定されている重要事項説明の書面交付がネックとなります。
これは、書面を交付しつつ重要事項の説明をする必要があるにもかかわらず、電子契約ではこれが事実上不可能なためです。これを解決すべく、国土交通省が運用実験を進めています。

不動産売買を電子契約するメリット

では、実際に不動産売買契約が電子化されるとどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、スピード・コスト・負担の3つのポイントからみていきます。

スピーディーに契約

電子契約が可能になると、時間や場所を選ばずに契約を締結できるようになります。そのため、双方のスケジュール調整がより簡単になるので、今まで以上に迅速に契約締結できるようになるでしょう。

コスト削減

契約書の締結にあたっては、書類や資料も多く、一部郵送対応することもあります。大切な書類なので、配達記録をつけることになると、それなりの金額負担が発生します。
何よりも、すでに述べた印紙税が大きな負担です。不動産売買だと、1,000万円を超える案件も多く、印紙税は5,000円以上になります。電子契約については、国税庁も印紙税貼付不要との見解を出しているので、コスト面を抑える安心感があるでしょう。

負担を軽減

前述したように書類は郵送が必要ですので、切手や封筒を購入するコストや手間がかかりますし、宛名や送付状を準備しなくてはいけません。また、印紙についても事前に印紙の購入や、該当金額に間違いないか、消印忘れがないかのチェックも重要です。
これら3つの点からわかるように、不動産売買契約の電子契約には大きなメリットがあるといえるでしょう。

不動産売買を電子契約した事例

最初の概要で述べたように、契約に関する重要事項説明を対面で行わなくてはならないため、不動産売買を電子契約した具体的事例は少ないのが現状です。しかし近年、国土交通省が社会実験を進めているので、今後は事例が増えるでしょう。
ここでは国土交通省が進めるITを活用した重要事項説明に係る社会実験について簡単に解説していきます。

国土交通省の2つの社会実験

ITを用いた重要事項説明について、国土交通省が社会実験の対象としているのは、
1)個人を含む売買取引のIT重説
2)賃貸取引を対象とした電子書面交付
以上です。1)については、2017年8月よりまずは法人間契約から実験を開始し、2019年10月からは個人間契約も含まれています。

この実験では、売主と説明の相手方で同意書を取得し、事前に重要事項説明書を送付します。その後、説明の相手方の本人確認を行ってから、宅地建物取引士が相手方にITを通じて重要事項説明を行う流れです。
実際に浸透するようになった場合も、この運用に近い形で行われる事になるでしょう。

不動産売買以外も電子契約にはメリットが多い

以上、不動産売買の電子契約について解説しました。不動産売買の場合、重要事項説明が絡んでくるため、まだ実際の電子契約運用にまでは至っていませんが、すでに社会実験が進んでおり、今後浸透することが予想されます。
実際に運用が始まると、印紙税分のコストカットなど大きなメリットが生じるでしょう。また、不動産分野以外ではすでに電子契約が浸透しつつあります。
こちらもコストや労力の削減が期待できるので、まずこちらから導入を考えてみてはいかがでしょうか。

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