多くの企業が電子契約書の導入を検討しているようです。ただ、導入してメリットを得るには電子契約の仕組みを知り、専門用語について正しく知る必要があります。この記事では、そのための専門用語をわかりやすく解説します。

電子契約書の概要とメリット

まず、簡単に電子契約書とは何かを解説します。

電子ファイル形式で契約書を保管できる

電子契約書では、契約書も紙ではなく電子ファイル型式で保管されます。それによって、作成にかかるさまざまなコストや収入印紙税がかからないというメリットがあります。
契約書は全てサーバーに保管されるので、実質的なスペースは不要です。また検索も契約先や取引の名称や金額、日時などさまざまな条件で可能な上、しかも簡単です。それらにかかる時間や人件費の削減も可能です。

インターネットを通じて相互に交わすことができる

電子ファイルはやりとりも簡単です。紙の契約書なら作成後郵送し、先方が押印後返送する手間がありますが、電子ファイルなら電子メールを使えば送付コストと時間が節約できます。

法的・技術的に整備されている

電子契約書は、契約書に必要な要件をIT技術でクリアしています。正当性の前提となる契約についての関係者全員の同意および日時、さらにその後変更されていないことを証明します。その技術が後押しする形で、法律が正式にその正当性を認めています。

電子契約書用語集とその英語表記

電子契約書をなかなか導入できない要因のひとつに、専門用語のわかりにくさが挙げられます。ここでは代表的な電子契約の専門用語を、英語表記を付して解説します。

用語の定義で仕組みがわかる

電子契約書の正当性は、コンピューターの暗号技術を用いた公開鍵暗号システムが担います。このシステムは、対となる秘密鍵(Secret key)と公開鍵(Public Key)を用います。

【送る側の手続き】
1. 契約書である電子文書からハッシュ関数(Hash function)でハッシュ値(Hash value)を抽出する
2. ハッシュ値を秘密鍵を使って暗号化し、電子署名(Electronic signature)の生成をする
3. 電子メールに、電子文書と電子署名、及び公開鍵を添付して送信する

【受け取る側の手続き】
1. 添付されていた電子文書から、ハッシュ関数でハッシュ値を抽出する(値「A」とする)
2. 添付されていた電子署名を公開鍵を使って復号し、ハッシュ値を抽出する(値「a」とする)
3. それぞれ抽出したハッシュ値「A」と「a」が同じであれば、秘密鍵と公開鍵が間違いなく対である、つまり電子署名が本人のものだと判断できる

このように電子契約での電子文書の正当性は、秘密鍵と公開鍵、電子署名が証明します。

専門用語を使わない解説

先の手順をもう少し詳しく説明すると、次のようになります。

ハッシュ関数:電子文書からハッシュ値を抽出するための処理方法
秘密鍵:ハッシュ値を暗号化する暗号鍵(Encryption key)=一般には非公開
公開鍵:電子署名からハッシュ値を抽出する復号鍵(Decryption key)

ハッシュ関数を「決まった方法」、秘密鍵を暗号鍵、公開鍵を復号鍵に換えて、同じように解説したのが次です。

【送る側の手続き】
1. 電子文書から、決まった方法で値「A」を取り出す
2. 値「A」を暗号鍵を使って暗号化し、電子署名を作る
3. 電子メールに、電子文書、電子署名、復号鍵を添付して送る

【受け取る側の検証手続き】
1. 添付の電子文書から、決まった方法で値「A」を取り出す
2. 添付されていた電子署名を復号鍵で復号し、値「a」を取り出す
3. 「A」と「a」を比較し、同じであれば添付されてきた復号鍵と相手が暗号化した暗号鍵が対である、つまり電子文書を送った人が署名の人物であるとわかる

つまり、受け取る側が2つの方法で取り出した値が同じかどうかで正当性を判断するのです。

電子契約書の信頼性を支える専門用語

紙の契約書でも、これが間違いなく同意したものと同じものかどうかを確かめるのは簡単ではありません。電子契約書では、そのために電子署名・電子証明書とタイムスタンプを用います。

信頼性を支える電子署名と電子証明書

電子署名とは電子文書に付与される電子的な証明で、電子署名法第3条により紙の文書でいう押印や署名と同等の法的効力を持つとされています。
電子署名の役割は次の2つです。

・署名した本人が作成した電子文書である(本人であることの証明)
・電子文書が改ざんされていないこと(非改ざん証明)

また、電子証明書とは従来でいう印鑑証明書のような、特定の発行機関が発行する身分証明書にあたります。

時間を証明するタイムスタンプ

電子ファイルや電子署名では保存・作成された時間が記録されます。この時間はあくまでもその端末に設定された時間であり、正確な時間とは限りません。
電子契約書では、それが正しい時刻であることをタイムスタンプが証明してくれます。タイムスタンプは電子契約上「第三者機関により電子データに対して正確な日時情報を付与」する技術です。
タイムスタンプは次の2つを証明します。

・その文書が存在している時間(存在の証明)
・その時刻以降、文書が改ざんされていない(非改ざん証明)

契約書において時間は、大きな意味を持ちます。本人性と時間が間違いなく担保されている技術があるからこそ、電子契約書は有効だと認められるのです。

電子契約書は専門用語をしっかり理解して導入しよう

現在、電子契約書の正当性を証明する技術的、法的な整備は進んでおり、導入すればどの企業でもそのメリットを得ることができます。
ただ、そのためには電子契約の仕組みと、まつわる専門用語を正しく理解する必要があります。うまく利用して業績に活かすため、電子契約の用語に対する理解を深めましょう。

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